Heaven
「虐待は嫌らよっ!」

ギョロリと。

真逆に向いている左右の瞳孔を引ん剥き、右腕を伸ばす赤ん坊。

しかしその右腕さえ、アル・アジフの強すぎる『毒』が燻り炙る。

アル・アジフに限らず魔道書の原典というものは、自身に『原書を処分しようとする者を攻撃する』という意思があり、これを利用して原書を盾にしたり武器にしたりも出来る。

例え相手が同族であっても同じ事。

強い毒を、より強い毒が滅ぼそうとする。

「ママ、ママぁっ、たしゅけてっ、この人がぼくをいじめりゅよぅっ、ごはんっ、やわらかいはらわたっ、なまぬるい血をのませてくりぇないよぅっ」

声色ばかり可愛らしく、庇護を求める幼子のように命乞いする赤ん坊。

だが。

「人の世に降りた悪魔に、神は慈しみの心をお捨てになりました」

ゆっくりと。

カタリナがアル・アジフの表紙を開く。

「悔い改めよ、異形の使徒。我が主に背く神敵よ」

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