春の桜は色鮮やかに=独眼竜の妻・愛姫=
伊達とは、ここ最近勢いを増してきた大名家である。

そのことは、愛姫の耳にも入っていた。


けれど、まさか縁談の相手がその伊達だとは。
思いもよらなかった。



難しい顔で考えこむ愛姫の姿を見て、侍女のたきが心配そうに声をかける。



「姫様、そんなお顔をされて一体どうされたのです」

「ううん、なんでもないよ」

「何か、お悩み事があるのでしょう。たきにお話しくださいませ」

「・・・縁談が、はいったの」

「おやおや、それはめでたきことではありませぬか」

「お相手は・・・たぶん、伊達家のひと」

「伊達・・・まさか、伊達輝宗公の若君などとおっしゃられるのですか」

「そこまではわからない。でも、きっとそうだと思う」




伊達輝宗(だて・てるむね)とは、東北において力をもつ伊達家の主だ。

若君というのは、彼の息子のことだろう。





愛姫に、縁談自体を反故にするつもりは全くなかった。


ただ、伊達家は田村家よりも多くの領地を擁する、つまり強大な家だ。



そのような家に自分が嫁いで、田村のために何ができるのか。

愛姫は、ただそれだけが不安だった。
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