春の桜は色鮮やかに=独眼竜の妻・愛姫=

伊達の独眼竜

その頃、出羽国(でわのくに・今の山形県)米沢城は、城に仕える者達が流した噂で持ちきりだった。


当主・輝宗の嫡男、政宗の結婚話についてだ。




「そういえば聞いた?若様の縁談話」

「聞いたわよ。なんだか、田村の姫がどうって話じゃない」

「やっぱり、若様の奥方ってくらいだから、美人なのかしら」

「期待させておいて、案外そうでもなかったりするかも」

「醜女だったらがっかりよね」



噂好きの女中達は、仕事を放り出して立ち話に興じている。


それを見た政宗近侍・片倉景綱(かたくら・かげつな)はため息をついた。

まだ田村からの返事も来ていないのに、もう決まったもののように吹聴されているのは、景綱の悩みの種である。



政宗も「小十郎、小十郎(景綱の通称)」と景綱の後ろにくっついていた頃とは見違えるほどに大きく成長した。


もしこれを政宗が聞いたら、報告もせずに決めるとは何事だと怒るに違いないと思って、景綱は眉間にしわを寄せた。


ちょうど、政宗に縁談の話を伝えに行くところだったのだ。



政宗の居る部屋の戸の前に座り、「景綱にございます」と呟く。



すると、ばたばたと物音がしたかと思えば、目の前に政宗の顔があり景綱は驚きの表情を浮かべた。




「わ、若。どうされました」


「小十郎。田村の姫について、詳しく聞かせてくれ」






ああ、時すでに遅し。
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