-浅葱-新選組異聞



懐中電灯の光りに目を細めた男は眉間に皺を寄せて手を振り上げた


「夜嗣!!」


流血に息を呑んでいた御草を後ろへ引っ張る
鼻先を白刃が掠めていく


日本刀


「何奴だ!」


男が叫ぶ
更に振り下ろされた刀に七瀬は咄嗟に手に持った懐中電灯で受け止める


ガツリ、とプラスチックが裂ける音がする
男は驚いたように更に目を細めた


「何すんだオッサン!?」

「この!その妖しい光はなんだ!」

「浅葱!」


男は焦ったように力任せに七瀬を振り払う
揺らいだ七瀬の体を見て、地面に倒れた御草が悲鳴を上げる


しかし、七瀬は体勢を崩したまま足を振り上げた
脇腹に掠めた膝に男はよろける


(血が沸騰するようだ……)


弾けるように男の懐に飛び込んだ七瀬は硬い感触のそれを抜き取った


竹刀よりも重いそれを両手で握り締める


スラリと夜闇に刄が煌めく


騒がしい喧騒が近づいて来るが、七瀬の耳には入らない
自身の鼓動だけが全身に響いている


「いたぞ!」


誰かの声が引き金になったのか、七瀬が動いた






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