-浅葱-新選組異聞
御草は七瀬をただ見つめていた
懐中電灯の灯りはどさくさ紛れに消えていた
降りしきる星明かりだけが彼らを浮かび上がらせる
七瀬の運動神経が異常に高いことは、幼なじみの御草にはわかっていた
けれど、こんな七瀬は知らない
男が構えた日本刀
それよりも短い小刀、いや、脇差だろうか
ソレを隙なく構えた七瀬はいつもと違う鋭い目をしていた
複数の足音が近づく
灯りをかざした男たちが現れる
そいつらが何か叫んだと同時に七瀬は動いた
焼き付く残像を御草は追っていた
「ハアアァァァァア!!」
それは獣の慟哭に似ていた
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「ヤツは?」
「路地に逃げ込みました」
「手分けして追い詰めて下さい。暴れるようなら切り捨ててもかまいません」
それだけ冷たく言い捨てて彼は前を向く
たいして気にならない寒さだが早く寝床に帰りたい
「早く見つけて帰りたいのになぁ」
長い黒髪を1つに結あげた青年は困ったように呟く
腰には二本の刀を差して、羽織るのは浅葱色のダンダラ
一つ先の角を曲がったところで青年は不思議なものを見た