-浅葱-新選組異聞
「おやぁ?」
間抜けにも聞こえる声を青年は上げて、次いで無邪気に微笑んだ
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火花が散らなかったのが不思議なほど激しく刀身がぶつかった
手首にかかる負担が半端ではない
滑らせるように刄を寝かせて七瀬は脇差を振り抜く
嫌な音と、刀身を伝って不快な感触が手に残った
次いで、顔から身体にかけて生暖かいモノが降り注いだ
「……あ……さぎ」
焼け付くような熱に外気の温度を忘れていた
御草の縋るような声に振り向けば、放心したような御草の瞳があった
見下ろした自分の服が横たわる男と同じ色に染まっていた
滴る生暖かい血に目眩がする
「初めて人を斬りましたか?」
凍り付いたような2人の間に場違いなほど陽気な声が響いた
「そこの男は私達が追っていたんですけどぉ、君たちが始末しちゃったんですね」
膝をついて脇差を握り締めたままの七瀬と御草をいつの間にか無数の男たちが取り囲む
その男たちは一様に夜目にも鮮やかな浅葱色のダンダラを着ていた