山神様にお願い
「そうだけど、別になんとも思わなかったわよ。龍さんは、そういう人だって知ってるし。でも虎さんは一々怒ってたわね。龍さんとの恋に破れると、辞めちゃうのよ、皆」
残ってるのは私くらいね~などと平気な顔して言っている。
板前に惚れて、付き合って、その付き合いがダメになって、仕事を辞める。・・・確か~にそれって迷惑だよね。よく龍さん首にならないもんだよね。
「どうして龍さんは首にならないんですか?」
「あら、それを聞く?・・・・うーん、まあ一言で言うと、オーナーのお気に入りなのよ、あの人。それに虎さんも、恋愛になるまでに別に止めには入らないしねえ。別れて彼女が辞めると龍さんに怒るけど、新しい獣を探すのはきっと好きなんじゃないかな~」
新しい獣。それも、山神様にお願いするんだろうか。次の獣を下さいって。
そうやって居酒屋の一番奥の壁の山神様に両手を合わせている店長を想像するのは、簡単だ。だっていつでもやってるもん、店長。
でもそれより、とりあえず龍だよ!何て人なのだ、あの兄さんは!
「・・・彼女の時は、辛くなかったんですか?」
もしそうなら、私は龍さんを嫌いになる。そう思って聞くと、ツルさんは目をぱちくりとさせてまた笑った。
「ああ、やだやだ、違うわよ。すごく楽しかったわ、付き合ってる間。料理も上手だし、実は細かく気を遣う人だし、エスコートも素敵だった。それに、彼女と決めた相手がいる内は、他の子にちょっかい出すことはしないし。・・・でも、楽しいだけなのね」
「はい?」