山神様にお願い
ツルさんは波打ち際で遊ぶ男達をじっと見ていた。汗がポタポタと一粒ずつ落ちては砂に吸い込まれていく。
「普通は恋って、楽しいだけじゃないでしょう?不安になったり、ドキドキしたり、独占したいって思うから嫉妬も出るし・・・龍さん相手の時はそれがないの。それで、ある時気付くのよ――――――――――これは恋じゃないって」
正直言えば、私にはよく判らなかった。だって、小泉君だって優しかった。明るくて、いつでも私は楽しかった。不安なんてほとんどなかったし。
だけど、私はそれを恋だと思っていたんだけどな、って。
「何とも感じないの。彼が他の子と話しているとか、不安じゃなかった。彼は聞くのよ、飲み会やら何やら、行ってもいいか?って。どうぞ、って言える。そこに他の女の子がいたとしても」
「・・・とてもいいことのように思えるんですけど」
私には。だって、安心してるってことじゃないの?そう思って見上げると、ツルさんは難しい顔をした。
「うーん、うまく言えないわ!何と言うか・・・でも、ほら、彼でないとダメってこともなかった、と言えば判る?薄っぺらい感じがするのよ、関係が・・・。もう~!うまく言えないわ~!」
ツルさんはそう言って地団駄ふむ。
「す、すみません。理解力が乏しくて」
そう言うとあはははと笑った。
「ああ、暑いわね・・・」
彼女は微笑んでいたから、私は肩の力を抜いた。
「ま、龍さんは私には合わなかった、ってことなんでしょうね。あ、でもその点、虎さんは正体不明でも、人間らしいわ」