山神様にお願い


「え?」

 店長?

 急に思考が途切れて私はちょっと混乱する。さっきまで頭の中を占領していた龍さんが消えて、緑の部屋、山神の森で植物の世話をする夕波店長の姿が浮かび上がった。

 葉をなでる、優しい手つきを。その真剣な目を。

 ツルさんが振り返った。彼女の額から汗が流れる。それが顎までつたって、手で拭い去られてしまうまでをじっと見ていた。

「虎さんもいじめっ子よね。でも、今までの中では、シカちゃんに一番興味あるみたいね」

「げ」

「虎さんなら頑張って、って言えるわ。ちゃんと恋愛になりそうな予感がするから」

「い、いえ、私は―――――――」

 言葉は消えてしまった。

 あとには波の音と、獣達のあげる笑い声だけ。眩しい夏の一瞬が、ずしんと胸に落ちてきた。

 ツルさんが柔らかく笑う。

「・・・それにしても、暑いわねー・・・」

 どこもかしこも眩しい海辺で、世界はやたらと迫力を持って、しかも静かにそこにいた。音と光に圧倒されて、私は目を瞑る。自然は偉大だ。

 遠くから、龍さんが手を振って叫んでいる。


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