山神様にお願い
くそ~。私はもう前に向き直って、プリントの上に赤ペンを走らせた。後ろからの視線はずっと感じてるけど、無視だ無視。
実は、今週はまだ山神に行っていないのだ。
今までは仕事を覚えるためと、優先的にシフトを入れられていたのが、シカももう仕事は覚えたし、ということで、フリーターであるツルさんに優先順位が戻された。
なんせ、私とウマ君は大学生で、私はバイトも掛け持ちで小額とはいえ実家からの援助もあるし、ウマ君は実家暮らしの学生である。
ツルさんみたいに生活がダイレクトにかかっているわけではないので、普段は彼女が優先されると最初に聞いていた。私は一年もいれない身分である引け目があるので、全然構いません!と答えた。
で、月曜日に海にいって、火・水・木・金がツルさんで、そこにたまにウマ君が加わって、明日の土曜は店が休みで、日曜に、私の出勤というのが今週のシフトだ。
間が空いちゃって悪いけど、先月ツルがバイト入るの少なかったから、ちょっと調整でこうなったから許して、と店長には言われていた。
勿論いいですよ~!と月初めに言っていたのだ。その時になってみると、海での疲れが一日では取れなくて、結局火曜日もずっと引きこもっていたくらいだったので丁度よかった。
それに、ほら、私は若干店長に会うのが恥かしいし―――――――――――
「遊びに行ったんでしょ」
後ろから阪上君の声が飛んできて、ハッとした。
思わず海の、あの午後の場面に記憶が飛んでしまっていた。暑い日ざしに砂、背中のブルーシート越しに感じるその温度、大きな両手で閉じ込められて、すぐ目の前に店長の顔があった、あの場面に。
頭をぶんぶんと振りたいのを我慢して採点を再開した。