山神様にお願い


 何を言ってるんだ、この子は。

 私は下から彼を見上げたままで、呟くように言う。

「・・・そんなこと出来るわけないでしょう。阪上君、自分が・・・・何言ってるのか、判ってるの?」

「勿論判ってるよ。僕は、本当にやるよ、センセー」

「・・・そんなことして、私が君を好意の対象に見るわけないと思わない?」

 ゆっくりと言った。

 相変わらずの暗い目をしたままで、口元を歪めて阪上君が呟く。

「・・・・・忘れられないように、嫌われるんだ」

「阪上君」

「凄く嫌われたら、センセーは僕を忘れない」

 彼の顔が歪んだ。くしゃりと、音をたてるみたいに歪んだ。

「ずっと、言ってきたじゃないか、ひばりセンセー」

 目の前の男の子の、綺麗な形をした瞳から、水の玉が零れ落ちるのを見ていた。私は動けないで、目を見開いて。彼はごしごしと目を擦る。

「・・・センセーが、欲しいんだよ」

 嘘泣きかもしれない。

 だって、この子はそんなこと、平気でする。

 そうするほうが有利だと思ったら、泣くくらいのことは平気でする子なのだ。

 そう自分に言い聞かせた。


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