山神様にお願い
その、ついさっき私の言葉に傷付いて目の前で泣いていた阪上君のことも、すっぽりと抜けてしまうくらいに、私は緊張していたのだ。
夕波店長に会うってことに。
なまじあの浜辺でのドキドキ体験から時間が経っていたから、余計なのかもしれない。とにかくどういう態度で接したらいいのかが判らなくて、翌日のアルバイトにはほとんど棒のようになって出勤した私だった。
だって、だって!あの人、キスしようとしたんだから!別に彼女でもないのに~!!
いつもみたいに口だけでなくて、本当に実行しかけたのだから!
私には判らない行動で、ただ驚いていて、次に店長の顔をみたときにどういった表情をしたらいいかが判らなかったのだ。・・・まさか、眞子達にもアドバイスなんて聞けないし(言ったら最後、やばいことになるってことくらいは判る)。
だけど、何度も言うように、店長はいつもの通りだったのだ。
笑って、からかう。どうすればいいのか判らないことを言って私の反応をみて爆笑している。それが一緒。決して特別な視線で見られたりだとか、セクシャルな何かをされたりだとかがないのだ。触れてくることはないし、二人っきりになることもない。少なくとも私はそんな風には感じなかった。
・・・・・別に、期待してないんだけど!
でも、キスまでしようとしたのに余りに何もなくて、私は肩透かしをくらったような状態のままで、もうそろそろ夏が終ろうとしている。
あれはやっぱり、この暑さでいっちゃった私の妄想頭が見せた、白昼夢だったのか?って。
ボスッとクッションを拳で殴った。
「・・・・別に、いいんだけど!」