山神様にお願い
お皿が飛んで、目の前を通り過ぎて行った。その行方は追わなかったけど、斜め後ろで壁に当たって割れ落ちたらしい音がする
「早く、こっちへ来てください!」
ツルさんがそう叫んで、常連のお客様であるカップルを裏口から店の外へと誘導している。
うおりやああっ!と喚きながら、男の一人がブンブンと腕を振り回す。
「てめえらいい加減にしやがれっ!!」
龍さんが怒鳴って、椅子の足が折れる音がした。
ウマ君がカウンターの中で、自分のケータイを取り出して警察に電話している。彼はさっき、店の電話で警察を呼ぼうとして、「110番って何番でしたっけ?!」と言っていたから、相当混乱しているのだろう。
まあ、私も人のことは言えなかった。だって私に至っては目を見開いて怯えて凝固するばかりで、警察を呼ぶなんて考えもしなかったのだから。
結局ウマ君は店の電話を使うのは諦めて、ケータイの短縮を押すことにしたらしい。
罵声と、騒音。私は飛んでくる色々なものや言葉から逃げる為に、カウンターに飛び込む。
目の前には警察と話すウマ君の背中があった。
「早く来てください!」
カウンターの中でしゃがみ込み、騒音に負けない大声でウマ君が必死で叫んでいる。それをききながら私はイライラした。どうして電話で理由なんて聞くんだろう。早く来て欲しいから叫んでるのにって。
ことが起こったのは、今晩の夜8時ごろだ。