山神様にお願い


 お皿が飛んで、目の前を通り過ぎて行った。その行方は追わなかったけど、斜め後ろで壁に当たって割れ落ちたらしい音がする

「早く、こっちへ来てください!」

 ツルさんがそう叫んで、常連のお客様であるカップルを裏口から店の外へと誘導している。

 うおりやああっ!と喚きながら、男の一人がブンブンと腕を振り回す。

「てめえらいい加減にしやがれっ!!」

 龍さんが怒鳴って、椅子の足が折れる音がした。

 ウマ君がカウンターの中で、自分のケータイを取り出して警察に電話している。彼はさっき、店の電話で警察を呼ぼうとして、「110番って何番でしたっけ?!」と言っていたから、相当混乱しているのだろう。

 まあ、私も人のことは言えなかった。だって私に至っては目を見開いて怯えて凝固するばかりで、警察を呼ぶなんて考えもしなかったのだから。

 結局ウマ君は店の電話を使うのは諦めて、ケータイの短縮を押すことにしたらしい。

 罵声と、騒音。私は飛んでくる色々なものや言葉から逃げる為に、カウンターに飛び込む。

 目の前には警察と話すウマ君の背中があった。

「早く来てください!」

 カウンターの中でしゃがみ込み、騒音に負けない大声でウマ君が必死で叫んでいる。それをききながら私はイライラした。どうして電話で理由なんて聞くんだろう。早く来て欲しいから叫んでるのにって。


 ことが起こったのは、今晩の夜8時ごろだ。


< 136 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop