山神様にお願い
「に、にににに逃げる暇がなかったじゃないですかああああ~っ!」
「10秒あげたでしょ。ちゃんと宣言までしてから。ダメも嫌もなしでさほど抵抗もせずに抱かれといて、あーんな可愛い顔見せといて、意識飛ぶまで感じといて、ぐちゃぐちゃに乱れといて、今更逃げるってのもおかしな話でしょ」
聞こえない聞こえない!私は何も聞こえてないっ!!両耳を両手で塞いで、私は念仏のように聞こえてないを繰り返す。
「と、とにかーく!!もう今晩はダメです!私はお風呂に入りたいし、お腹もすいてますから!」
「あ、俺も俺もー。腹減って泣きそうだわ、そういえば。奇遇だね。じゃあとりあえず移動だな。俺の部屋にする、シカの部屋にする?」
ザアッと血がひく音がした。私は半泣きの状態のままで恐る恐る聞く。
「・・・・・あのお~・・・・別々に帰宅するっていうのは~・・・」
「は?」
店長がぴたりと笑顔を消した。すっと目を細めて、私をじーっと見る。思わず口元が引きつってしまった。
しばらく直視で私を存分に固まらせてから、店長は口角をあげて言った。
「例えシカが実家暮らしだったとしても」
「・・・しても?」
「今晩は離すつもりねえな」
・・・・・・ガーン。
妄想世界の中で、私の頭の上には巨大な岩が落ちてきたところだった。