山神様にお願い



 何と、私は立てなかった。

 下半身には力が戻ることなどなくて、よろよろと一階までを降りた時点で進めなくなったのだ。

 だからこれまた恥かしいことに、店長におんぶされて部屋まで戻った。

 もう夜の11時で、人気が完全になくなった駅前の商店街を、店長は私をおんぶしてのんびーりと歩いた。

 よかった、夜も遅くって。商店街に人がいないことを喜んだのは初めてのことだ。でも成人女性が男性におんぶさせていて、顔もぐちゃぐちゃで、あまり考えたくないけど服装もおかしかったから、誰にも見られなくて、本当に良かった。こんな所を大学の友達なんかに見られちゃったら大問題だ!

「す、すみません。重い・・・です、よね」

 私が後ろで恥かしさに赤面しながら言うと、前でケラケラと軽やかに笑いながら彼はこう返した。

「いやいや、大丈夫だよ~。シカをこうしたのは俺だから、ちゃんと責任は取らなきゃね」

 それ以上は言わないで下さい~!!心の中で必死にお願いした。・・・ああ、恥かしい・・・。

 真っ赤になっているだろう顔を、店長の首筋に埋めて隠す。汗臭い匂いがして、ドキドキした。

 ・・・私、この人に抱かれたんだよねえ~・・・。なんて思って。小泉君でない、男性にひっついているのが不思議だった。

「何か食べるもの、ある?」


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