山神様にお願い


「悪いけど、俺もシャワー貸して~。体中気持ち悪いわ」

「あ、はいはい、どうぞ」

 もういっそ明日の朝までずっと入ってて下さって構いませんから!そう心の中で呟いていると、店長はぺたぺたと裸足でお風呂場に行ってしまった。私はその後姿を呆然と見ていて、首を捻る。

 ・・・いつもの店長だ。あれ?全然恥かしいとか、ないのかしら、あの人・・・。

 不思議な生き物を見た気分。だって小泉君だって、初めて一緒に寝たときには目もあわせられなくなっていたというのに!・・・店長は、普通だ。これが大人の人ってことなのかな~・・・それとも夕波店長が変わってる??

 私の恋愛経験値が低すぎてその辺がよく判らない。サンプルが少な過ぎるわ。

 悩みながら残りのラーメンを食べる。

 体が綺麗になって、お腹も温まって、私は満足の吐息を漏らした。

 ああ、美味しかった・・・。

 厨房にはいつでも龍さんがいて、忙しい時には店長も入って簡単な盛り付けなんかはしているけど、それでもやっぱり店長はホールの仕事を主にしていた。人と話すほうが好きなんだよって一度聞いたことがある。だから料理が出来るだなんて知らなかった。

 というか、私は夕波店長のことはほぼ何も知らないと言っていいのだけれど。

 うーん、と声に出して唸って、私はベッドにもたれかかって目を閉じる。

 夕波店長に関して知っていること。名前、夕波虎太郎、年齢、28歳、今は日焼けしちゃってるけど元々色白の狐目の人。



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