山神様にお願い
店長は、私のベッドをその細身ではあるけど大きな体で占領して、うーん、と首を捻った。
「・・・言われたような、そうでないような。まあでもそんなの大切じゃなかったんだよ。だってシカを雇うことは決まってたんだから」
「ああ、ええと、名前で既に決められたってあれですか?」
山神の常識は世界の非常識という、あれだ。名前で採用不採用が決められるなんて、就活で苦戦している小泉君が聞いたら憤死しそうだ。
「そうそう。ツルにきいた?うちはそうなんだよ。採用の基準はそれ。名前に獣が入ってるかどうか」
因みに今までは、鷹も蝶も鷲も犬もいたよー、と思い出しつつ指を折っている。
「あ、あと熊もいたな。シカの前のバイトさん、三熊さんだった」
「それでどうしようもない、使えない子が来たらどうするんですか?」
私の怪訝な顔をみて、店長がにやりと笑う。
「そんなのどうにでも料理できるよ。でもよっぽどだったら勿論首だけどね。今まではなかったしな、そんなに酷い新人」
へえ、そうなんだ・・・。私はちょっと不思議な気持ちになる。多分、人を使うのに長けているのだろう、この人はって。龍さんとツルさん、それと気のいいウマ君、この店長が揃えば、確かにどんな人間でも短期間で使いものになりそうだな、と思って。
飴も鞭も、枕までも揃っている職場だ。
お腹すいた~とごろごろベッドで転がりながら店長がいうので、私は朝から疲れきった体を叱咤激励して朝食をつくりに立ち上がる。