山神様にお願い
「それで判ったよ、失恋したあとの感じ。シカ坊はまだ、本気で自分から人を好きになったことがないんだよ」
私は呆然とした。
目の前で店長は一人うんうんと頷いている。
・・・ええ?私、恋愛したことないの?じゃあ、じゃあ、小泉君との2年間は何だったというのだろうか。彼と一緒にいて、楽しく、手を繋いだりでドキドキして、あの気持ちは―――――――??
「え?・・・あのー、ちょっと・・・判りません」
混乱した頭でそう言うと、口元だけに笑みを浮かべて店長が言った。
「何というかー・・・。うーん、好きだったんだとは思うよ。きっとね、元カレのことはね。でもまだ淡い状態だったんじゃないかなあと思うね。そうだな、例えばー・・・」
理解の遅い私に合わせて店長が考え込む。仕方なく、答えを待った。もうどうせ、終わったことなんだけど・・・。でもあれが恋愛じゃなかった、といわれると、じゃあ何だったのと聞きたいのは人情ではないだろうか。
斜め上に真面目な視線を固定しながら、店長が低い声で言った。
「もう・・・。うん、そうだな、もう、今彼に会えるんだったら、私は死んでもいいです、神様!!って―――――――そんな強くてジタバタしたくなるような気持ちに、元カレに対して一度でもなったことがある?」
え?
私は目を見開いて考え込んだ。
・・・今、会えたら――――――――――死んでもいい?