山神様にお願い



 嘘でしょ、そんなバカな。


 私は顔を上げて店長を見た。

「ありません。どうして命をかけてまで会いたいんですか?」


 店長が、目を細めてふっと笑った。


「ほらね、シカはそんな強烈な気持ちを、まだ、知らないんだ」

 真剣に答えたのに、はぐらかされたような気持ちになった。私はカチンときて口を尖らせる。

「店長、判りません。じゃあ本気で人を好きになると、皆さんはいつでもそんなギリギリの状態なんですか?」

 彼はヒョイと肩を竦める。

「・・・ま、それは人によるんだろうけどな。環境や立場もあるし。でも、本気の恋愛はそんな淡々とはしてないよ。というか、出来ないんだ。いても立ってもいられないってほどしんどい時が、一度や二度はある――――――――――と、俺は思う」

 パチンと頭の中で何かが弾ける感覚がした。

 
 え、ええ?何だろ。何かが今、引っかかって―――――――――――――


 そして私は思い出したのだ。青い空、暑い空気の中で、キラキラと光っては輝いて揺れる波間を見詰めて、ツルさんがあの日に言っていたこと。

 龍さんとはそれがないの。

 いつでも楽しかった。だけど、恋愛ってそれだけじゃないでしょ?



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