山神様にお願い
ドアノブを捻りながら店長が言う。その低い声が耳に届いたとき、開けたドアの向こう側から眩しい秋の光が差し込んできていた。
「シカはもう俺のものだってことだよ。だからこれ以後、他の野郎にその体を触らせたら・・・」
オレ、クイチギッチャウカモヨ?
目の前でドアが閉まった。
私はぽかんとしたままで、玄関前に立ち尽くしていた。
「・・・え?」
やっぱりまだ理解が追いつかないままで、条件反射でドアに近づいて鍵をかける。
えーっと・・・。食い千切っちゃうかも?何を?誰を?・・・あれ?私を?それとも、そのー、ええと、私に触れる、相手の人を?
いつもの軽い口調だった。だけども、店長の声には凄みがハッキリと感じられたのだった。
私は相変わらず突っ立ったままで冷や汗をかく。
『虎さんが本気で怒ったら、龍さんなんてメじゃないのよ』
ツルさんの声が頭の中で響く。
どうやら私は、捉えられて、舐め尽され、しかも彼の巣穴に落とされちゃったらしい。
それだけは、ちゃんと判った。