山神様にお願い


 バン!と凄い音がして全員で固まった。

 私の目の前で龍さんがその垂れ目を見開いて、私と彼の顔の間を飛んでいった「もの」を見る。

 それは靴だった。店長がいつも潰してはいている、灰色のスニーカー。


 ・・・・・・ひゃあ。



 ぶわっと汗が大量に出た。


「ダメだよ、龍さん」

 声がして、皆の金縛りが解けた。

 私は口を開きっ放しにして店長を振り返る。

 彼は立て膝をした中腰の格好で、スニーカーを投げた姿勢のままで言った。

「シカは、俺が喰ったから」

「・・・げ」

 つい呟いたのは私だ。

 後の反応は違っていた。隣でツルさんが、きゃーっ!!本当にトラさんシカちゃんをものにしちゃったんですねえ~!!と叫び、更に隣ではウマ君が、うおおおお~っ!すっげー速さでしたよ今の!!トラさんマジでいい肩っすよ!と絶叫し、目の前では龍さんがマジマジと私を凝視していた。

「て、ててっ店長ーっ!!」


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