山神様にお願い
いつものように受話器を取って、山神でーす、と言った後の店長がやたらと静かだったので、皆で心配していたのだ。
で、店が終わった後、申し訳ないんだけど~と店長が話しだしたのだ。
俺、しばらく実家に戻るからって。
「しばらく?それってどのくらいの話?」
その間、店を頼みますね、と言われた龍さんが眉を顰める。同じように思っていた私とウマ君も、店長を見た。
だって、冠婚葬祭でも普通、3日とか4日とかじゃない?仕事を持っているわけで、しかも彼は責任者なわけで。店長の中で、酒処山神は優先順位が高いのがわかっていた。だから、ちょっと違和感を覚えたのだ。
お願いするくらい、長い間戻らないの?って。
夕波店長は壁のカレンダーをチラリと見て、うーんと唸った。
「そうだねー・・・。1週間は戻れないですかね。家族がいていないようなものなんで、俺が荷物の整理とかしなくちゃだし・・・。それにあとは、色々ゴタゴタが、ね」
いいにくい、というよりも、説明が難しいって感じだった。店長はため息をついて口を閉じる。
大切な人が亡くなったことよりも、そのゴタゴタにうんざりしているようだった。ハッキリとは言わないけど、秋から覚悟はしていたのだろう。あの時から、きっともうそんなに長くないって。こればかりは仕方ないことだしって、一度言っていたことがあったし。
「ここで飲んでていいのか?すぐにいかないと、通夜に出れないだろ?」