山神様にお願い
龍さんが時計を気にして店長に言う。だけど、手をヒラヒラと振りながら、店長はビールを飲み干した。
「大丈夫ですよ~。前の時に、ちゃんと別れはしてきたんだよ。今度はこなくていいからって本人に言われてるんだよね。もう電車、ない時間だし」
「親戚の方なんですか?」
遠慮がちにウマ君が聞く。
大切な身内、としか聞いてないので、なんともコメントのしようがなかった私は店長がどう答えるのかが気になってビールジョッキを置いた。
うーん、と店長が唸る。腕を組んで眉間に皺を寄せた。
「難しいんだよね、一言で言えないから、身内って言ってただけで。本当は血が繋がってないし・・・まあ、叔母、だよな、きっと」
え?皆で怪訝な顔をする。血が繋がってない人、なの?叔母・・・つまり、年上の女性であることしか判らない単語だな、それって。
でもとにかく亡くなってしまった人なのだ。店長が詳しく話したがらない限り、私達はそれを突っ込むべきではない。それ以上は会話にもならず、とりあえず店長がいない間のことを決めて、終わりとなった。
「じゃあ、お先~。虎、店は気にしなくていいからゆっくりしてこいよ」
もう客と喧嘩はしないから、そう言って龍さんが額を指で掻く。
「お疲れ様です!」
私達に遠慮して、龍さんとウマ君はさっさと帰ってしまった。
私は結局あたふたとしている内に公認のカップルとなってしまっていた彼氏である夕波店長を待つ。