山神様にお願い


 この遠慮が消えることはあるんだろうかって。だけど自分でも、それは判らないのだ。

 店の電気を消して、裏口をしめる。

「うわあ、寒い!今晩は冷えますね~、いよいよ冬なんですね」

 私は全身に震えがきて、コートの前をかき合せながらそう言う。何だか夜になっていきなり気温が下がったようだった。

「・・・本当は」

 店長がボソッと言った。

「何ですか?」

 先に歩き出していた私は振り返る。商店街の明かりはすぐそこに見えていた。山神が奥まったところにあるので、山神の電気を消すとここら辺は一瞬真っ暗になってしまうのだ。

 その暗闇から浮き出してきながら、店長がいつもの優しい笑顔をした。

「いや~、何でもない」

 え?私は首を傾げる。ちょっとちょっと、そういうのって一番気持ち悪いんですけど。

「やだやだ、言って下さいよ店長。何を言いかけました?」

「聞きたい?」

「聞きたいです」

 私は大きく頷く。何なんだ、このニヤニヤ顔は。さっきまでの真面目君はどこに消えた?もういつもの店長の雰囲気で、大きな口が三日月型に微笑みを作る。

「シカを抱いて帰りたかったな~」

「ぶっ・・・」


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