山神様にお願い
「まだ、シカは俺に惚れてない」
「―――――――」
「ぞっこんには程遠いな」
「・・・・ええと・・・そう、ですか?」
うん、と頷く。でもニコニコと優しく笑っていて、機嫌は悪くなさそうだった。
「難しいな、まあ攻略しがいがあるとも言うんだけどね~」
ヒョイと肩をすくめた。
こ、攻略って・・・。ゲームじゃないんだから。それにそれに、確かに私は店長のことが好き・・・だと思うんですけど。
どういう反応をしたらいいかで困ったまま、目の前の背の高い男性を眺めていた。
「ま、それもおいおい・・・」
そう呟いて、店長が片手で自分の髪をかき回す。そしてぼーっと見ている私に背中を向け、歩き出してしまう。
え、あれ?それで終わり?挨拶はなし?おやすみ、とか――――――――
「あの・・・」
私の声は白い息と一緒にその場に落ちる。小声過ぎて、店長の背中には届かないように思えた。
店長が作る私とのその数歩の距離がいきなり数キロの道のりにも思えてしまって、そのことに私は怯える。
てんちょ―――――――――