山神様にお願い
「も、森?」
外で食べるってこと?混乱した私が眉を下げて聞くと、右田さんは口の端を持ち上げて笑った。
店が開店時間になってからは頭をタオルで縛っていて(調理担当だからであろう)、こげ茶の髪の毛が隠れている。そのために軽い感じが消えていた。
「2階だよ。森って呼んでるんだ。スタッフルームとかよりいいだろ、気取ってなくて」
まあ、確かに森のようですね、そう返して、私は上がってきた。
机に置かれた丼の中には牛丼のような賄いご飯。・・・ありがたーい。それに美味しそう。でも緊張が酷くて疲れていて、お腹がすいてなーい・・・。
で、とりあえずぼーっとしているのだ。30分、いいよって夕波店長が言ってくれた。だからまだ、あと20分はある。
「・・・ああ、疲れた」
足を放り出して、初めての立ちっぱなしの仕事で痛む足を労る。ずっと立っているのがこんなにしんどいとは!
今日は木曜日。夕方の5時半から最初のお客さんが入ってきて、私はとりあえず店長の後ろについて注文のとり方を教えて貰った。今日はとりあえず、注文をとってスムーズにキッチンへまわせるようになって、と言われている。
この店は昔ながらに伝票へ自分で記入する。だからあまり急ぐと自分でも何を書いてるのか判らない文字になりかねない。
伝票に書いて、お願いしまーすと言いながらキッチンのカウンター端に置く。それを見て右田さんが調理をする。
なので、読めない字を書くと「読めねーよ!」と叫ばれてしまうのだ。私は焦ってわたわたと訂正する羽目になる。