山神様にお願い
だけどお客さんはそんなこと気にせずにパッパと注文をしていくので、頭の中は超混乱状態の私だった。
な、生って中ジョッキのことでいいんだったよね!?
せせり?せせりってどこの部分だっけ?塩だった、タレだった?それを聞くんだっけ?
一皿で串は何本?何本なんですか、店長さーん!!・・・みたいな。
あがりってお茶だよねえ!?それって伝票に書くの?とか、色々と。自分がお客で来ていれば迷わないと思われることすらも疑問となって私を襲うのだ。
キッチンに通すときに舌を噛んでしまって黙って苦しむ私に、店長がポンポンと肩を叩いてくれた。
「ほら、一度深呼吸だよ。最初から出来る人なんていないんだから、焦らないで。時間はかかってもいいんだ、間違えないのが大事」
私は救われた気持ちになって、大きく頷く。そうだ、私は今日入ったばかり!焦らないで、ゆっくりと―――――――――
・・・・う、でも、とりあえず噛んだ舌が痛い・・・。
一人で拳を握り締めていたら、屈んだ店長が顔を近づけてきた。ちょっと驚いて身を引くと、低い声でボソッと言う。
「今、舌、噛んだ?」
「へっ?あ、はい。噛みました」
「やっぱり」
夕波店長の細い目に楽しそうな光がよぎる。くくく・・・と笑い声がして顔を上げると、キッチンから身を乗り出してカウンターの皿を提げている右田さんが言った。