山神様にお願い
だから私は忙しかった。
店長のことを考えてる暇なんて、ないんだから。
そう思って、敢えて忙しくしているってことは黙殺した。
やっぱりちょっとは私も膨れていたのだ。・・・私が好きだって言ったくせに~、とか、他の男についていったらダメとか言いながら、電話も寄越さないってどういう事よ~、とか。
ま、もういいんだけど!だって、本人が帰ってこないと喧嘩も出来ないんだから。
今日も私は大学の図書館にいる。そこで、机に向かっていた。外は寒いらしく、風が吹いては窓ガラスを叩いて揺らしていく。
外から入ってきた学生が、温かい空気にほっと肩の力を抜いているのが視界に入っていた。
その時、私の背中を、トン、と誰かが叩いた。
私はくるりと振り返る。その控えめな感触には覚えがなかった。別に誰とも約束してないしな、そう思って。
するとそこには、小泉君が立っていた。
「・・・あ、久しぶり」
驚いたけど、声を落として私は言う。実はちょっと緊張した。だって、彼とは夏のオープンキャンパスで別れて以来だったからだ。
小泉君は周囲に配慮して声を出さずに隣の席を指差した。空いてる?って聞いているのだろう。私は頷いて、隣の椅子に置いていた自分の鞄を退ける。
寒さで鼻の頭を赤くした小泉君が、ありがとうと小さく言って、私の隣に座った。