山神様にお願い
「焦ってる焦ってる。見てる分には楽しいぜ」
「うう・・・すみません。あの、頑張ります、夕波店長」
楽しまないで下さい、と表現したつもりの顔で言うと、また右田さんから声が飛ぶ。
「夕波店長!ひっさしぶりにそんな呼び方聞いたなあ、おい!ちょっと萌えちゃうね~!でもシカちゃん、こいつは虎だよ。虎、言ってみな?」
「・・・」
私は片手をぶんぶんと顔の前で振った。呼べるわけないじゃん!心の中では思いっきり叫んでいた。どうやったら初日で店長を呼び捨てできるのだ!
待ってる様子の右田さんに、私はへらっと笑った。
「よ、呼べません。だって店長さんですし・・・。右田さん、それ、運びましょうか?」
話題をそらすつもりでそう言うと、あ、これは俺が届けるから、とカウンター越しに端のお客さんに出している。
店の中に、お待たせしました~!と彼の大きな声が響いた。店長が隣で唱和しているので、慌てて私も口を揃える。
そしてまたこっちに戻って来た右田さんは、にやりと笑った。
「ほら、シカ!虎って言えよ。それと、俺のことは龍だぞ、右田さんなんて呼ばれたら湿疹が出来る。言ってみろ~。龍って」
「・・・かっ・・・勘弁して下さい~」
「ダメ。言え、新人!龍さ~んって」
彼は両手をあわせてくねくねと腰を振っている。・・・・何なの、この人。