山神様にお願い


 店長はそ知らぬ顔で、注文が入ったビールを注いでいる。絶対さっき目が合ったのに、無視された~!自分で対処しなさいってことかな~・・・。

 私は胸の中で盛大なため息をついた。もう!

 無愛想にならないように気をつけながら、棒読みで言う。

「右田さん」

「お前、喧嘩売ってんの?」

 いえ、いっぱいいっぱいなんです・・・。情けない顔で伝票をテーブルに置くと、ジョッキを持った夕波店長が小声で言ったのだ。

「あまりしょげてると、ますます龍さんのおもちゃにされるんだよー、気をつけて」

 って。

「おもっ・・・おもちゃ!?」

 何だって!?それは大変!

 私はぎょっとして思わず叫ぶ。そしたら右田さんに爆笑されたのだ。店長までもがビールサーバーの前でゲラゲラと笑っていた。ついでに、声が聞こえる範囲のカウンターのお客様も。

 くっそう!本当に何なのだ、この人達は~!

「け、喧嘩売ってません、その・・・すみません・・・」

 憮然としたけど、まさか噛み付くわけにはいかない。今日は初日なのだ。間が空いてしまったけど、とりあえずと私は謝る。それが成人の対応でしょ。

 するとくるりと店長が振り返って私を見下ろした。そして、にーっこりと、大きな笑顔。弾んだ声で言った。


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