山神様にお願い


「ついでに、俺にもおもちゃにされるからね」

「え」

「ここしばらく遊んでないから、今晩は随分と楽しいよ」

 店長さんは大きな口の端をぐぐっとあげて、満開の笑顔。瞳をキラリと光らせた(ように見えた)。

「今日は君の初日だから、いい店長でいることに決めたんだ。今までのところ、俺、とっても優しいでしょ?」

 ――――――はっ!?初日だからいい店長でいる!?何だあ、そりゃあ!?私は顔を上げて、夕波店長を凝視した。

 キッチンで、棚からお皿を出しながら、右田さんも被せて言う。

「そうだぞー、シカちゃん。うちの店長は実は苛めっこなんだからな。俺なんかメじゃないって、言っておく~」

 え、マジですかっ!?

 私が口を空けっ放しで唖然としている間も、彼らは普通に働いている。さっさとビールを運んでと普通の顔に戻った店長に言われて、やっとハッとした。

「泡が消える!」

「は、はい!すみません!」

 お待たせしましたー、そう言いながらテーブルに運び、お客さんに笑いかける。だけど口元が引きつっていたのが、自分でも判った。

 多分、お客様にもバレてる。苦笑して受け取ってくれたから。

 新人をからかいまくる厨房担当・・・実はその上をいくらしい、店長・・・。うわ~・・・。

 雇って貰えたのは有難いけど、若干選択を誤ったような気がした私なのだった。



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