山神様にお願い
小奇麗なホテルだった。ラブホでごめんねーって店長が謝った意味が判らなかった。だって、一緒にいれたら嬉しいのだ。だけどまだその気持ちを言葉にするには、私の恋愛レベルが足りていなかった。
だからただ、首を振った。
気にしてませんって伝わりますように、そう思った。
「ああ、ちょっと冷えたなあ~。冬にバイクはやっぱキツイか。手、大丈夫?」
着ていたライダースーツを脱ぎながら、夕波店長が私に聞く。私はといえば、目の前でどんどん衣服を脱いでいく店長から目を離したくて必死で返事が出来なかった。
ジッパーを開けてライダースーツを脱いで落とすとグレイのニットセーターが出てきて、それをめくり上げたらもう素肌で――――――――って、どこまで脱ぐんだああああ~!!
だって、だって!!躊躇が全くないんだもん!さ、さささ寒いんだったら着とけばいいんじゃないですか!?って叫びそうだった。
あっという間に上半身裸になって、店長は返事の出来ない私を見た。
「シカ?―――――――あらまあ、真っ赤だな」
相変わらず引き締まった素敵な上半身から無理やり目を逸らしながら、私は熱くなっている両頬を手で包む。冷え切った指先もこうしていれば瞬間沸騰するのではないだろうか、と思って。
店長に背中を向けて叫ぶ。
「もうもうもう~!どうしていきなり脱ぐんですか~!話ですってば、話!」
「何いってんの、順番は言ってなかったでしょ。先に捕食だよ」