山神様にお願い
「てっ・・・てん、ちょー!婚約者!婚約者って誰ですか~っ!!」
必死だった。
取り敢えずそれだけを叫んだ。迫り来る快感に負けずに、喘ぎ声よりも先にそれを言えた自分に拍手を送りたかった。
偉いっ!偉いわよ、私~っ!!
ぴたりと愛撫をやめて店長が止まる。
「・・・何?」
私の両足の間から彼が顔を上げる。そう呟いた顔は、かなり怪訝な表情をしていた。珍しい店長の真面目な顔だ。だけどだけど、私から見えるこの光景は頂けないわ。恥かし過ぎる。
私はよいしょと震える片足を何とか持ち上げて、彼の舌の攻撃対象の場所から逃げることに成功した。
ふう・・・、と、とりあえず、これで平常心で話せるはずだわ!
乱れた衣服を解放された手で何とか出来る限り元に戻して皺をのばしながら、私は言う。
「み、店に・・・店長の婚約者って方から電話があったんです・・・。あの、それで、皆が心配して・・・。て、店長、婚約者さんがいらっしゃるんですか?」
声が震えてしまった。
だけどこれだけは確かめないと。もし本当にそんな存在の人がいるのであれば、どれだけ好きでも私はこの人に抱かれるわけにはいかないのだ。
それだけは、絶対にダメだ、そう思っていた。
彼女はいないって聞いていた。だけど、婚約者がいるとは思ってなかった。確かに婚約者は彼女ではない、だけど、それ以上の存在であるはずだ。