山神様にお願い
「え?店に電話?」
私を襲うことで乱れた前髪の下で、店長が細い目を精一杯見開いている。本気で驚いているようだった。
そして自問するかのように呟いた。
「・・・あいつ、店に電話したの?俺母さんに頼んだんだけどな」
ゴン、と岩石が天から降ってきたかのようなショックを受けた。きっと頭の中の血管が今一本切れたに違いない。それほどの衝撃を、一人で受けた。
・・・・・・あいつって、あいつって、あいつって言ったああああああ~!!!
立っていたならショックで崩れ落ちたはずだ。だけど幸か不幸か私は既にベッドに寝転んだ状態だったので、崩れ落ちはしなかった。
ただし、一瞬難聴になった。彼の口が何か動いていたけれど、何て言ったかが聞こえなかったのだ。
きっとショックでヒートしたのだろう。
いるんだ、本当に、店長には婚約者がいるんだ!!そればかりが忙しく頭の中を動き回ってぐるぐると言葉が回る。
婚約者って、婚約者って、結婚を約束した人のことである、そうロボットみたいな声色で自分が頭の中で喋っている。
ケッコンヲヤクソクシタヒトノコトデス―――――――――――――――――
「・・カ、おーい、シカ?」
ハッとした。店長が私の頬を大きな手で包んでいる。それに気がついた。私はボーっとして、魂が抜けていたらしい。