山神様にお願い
「どうして泣くんだ?」
「え?」
私はしかも、泣いていたらしい。頬に当てた指先で店長は涙を拭っているところらしかった。
「・・・だって、婚約者がいるんですか・・・本当に・・・」
呟いた声は小さすぎて、ちゃんと彼に届いたかどうか。だけど、店長は苦笑して返事をくれたのだ。
「婚約者だった、だな、正しくは。それもちゃんと解消してきたよ」
え。
「だからシカが心配することないんだけどな。そっか~、山神の全員が知ってるわけね、それ。あらまあ、大変だ」
ううーん、龍さん辺りが煩そう・・・と唸りながらも軽い口調でそう言う店長をガン見した。穴があくのではないかと自分でも思うほどに。
私は瞬きをして涙を振り払う。
解消・・・・・解消!?解消してきた??
「え?ど、どうしてですかっ!?」
思わず叫ぶと、驚いた店長が、おお?と体を仰け反らした。
「いや、そりゃシカが欲しいからでしょ」
「――――――――――」
「大体元々口約束で、付き合ったこともない相手なんだよ。ただし相手がちょっと面倒な家庭の人間なんで、解消するのに手続きがいったってだけ」
「ええ?付き合って・・・ない?好きな方じゃないってことですか?!」