山神様にお願い


「え?・・・いえ、聞いてません、けど」

「正直だからだよ」

「へ」

 ニヤリと、更に大きく笑みを浮かべて、彼が笑った。

「動物も植物も、正直なんだ。生きるために当たり前に必要なことをする。シンプルなんだよ。食って、寝て、邪魔な相手を倒す。自分に必要なことを。そこには面倒臭い理屈やいいわけなんてないんだよ、シカ」

 ――――――――――・・・はあ。ええと・・・それで?私が疑問を口にしようとする直前、いきなり凄い力で引き倒された。

 きゃあ!という悲鳴は落ちてきた彼のキスで呆気なく消される。舌で口内をこねくりまわすようなキスを長い間して、店長がゆっくりと顔を離した。

 電灯から逆光になって暗く見える店長の顔に、光る瞳。それは実に雄弁に語っていた。俺はお前が欲しいって。

「シンプルで正直で、全身で毎日を生きている獣。俺はそんな風になりたかったんだ。昔は、憧れてたね」

「・・・・あの」

「そしてなれたんだよ。もう―――――――自分のしたいことで、悩むことはないんだ」

「てん―――――――」

 最後まで言えなかった。私の唇には彼の親指が突っ込まれてしまったから。

 それからは問答無用で、ガツガツと彼は私を食べ始めた。

 実に楽しそうに、そして嬉しそうに。

 私はもう流れに身を任せることにして目を閉じる。

 だって、頭も真っ白になったから。


 ・・・・仕方ないです、これは不可抗力。



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