山神様にお願い
ケラケラと店長は笑う。・・・笑えるんですね、それほどの余裕があるなら、もうこの件はなかったことにして下さいませんかね・・・そう思って肩を落とした私だった。
やっぱりバイクで冷え切った体を温める為に、暖房を入れてから熱いコーヒーを入れた。
店長はブラックで飲む。どうぞ、と出したらおー、サンキューと軽い返事。それで若干気分が楽になった。
「生徒?ってことは、高校生なのか?」
ベッドにもたれて長い足を放り出し、店長の尋問が始まった。私はつい正座をしそうになって、慌てて足を崩す。何か・・・すでに気持ちから負けている気がする。
「はい、今高2の男の子です」
話し出した。最初に家庭教師として阪上家に行ったときからのことを。担当となった男の子の性格、色々あったエピソード、彼のご両親にお願いされて家庭教師を続けたこと、ちょっかいを出してきたのは先生を女性としてみてるからだと言われて家庭教師を辞めたこと。
夕波店長はたまにコーヒーを飲みながら、聞いているのかいないのかよく判らない態度で黙っていた。
寝てるのかと思ったほどだ。あまりに微動だにせずに目を瞑っているので。
「―――――――で、この間の水曜日に大学前に阪上君がいて、お茶しようって言われたんです。断ったら手首を・・・捕まれてしまったので、取り敢えず喫茶店に行きました。やっぱりあの子のペースにはまってしまって、これではダメだって思って中座したら、その時にあの子、私の鞄からケータイを取っていたみたいなんです。それでメールを作成して、一括送信したってことなんですけど・・・」
襲っていい?とか、ちゅーしよう、とか、プロポーズされたとか、起こったことは全部言ったけど、かなりの勇気がいった。その度にどもってしまった私だ。山神の皆に話した時も、そんな露骨なことを言われたとはやっぱり言えなかったもの。あまりに恥かしくて。