山神様にお願い
「言ったらどうした?」
「え?」
「あの子に会いに行くって、言ってたらシカはどうした?止めたか?いや、そんなことはないと思うね。でも一緒に行くって言い出すだろうな。そう思ったんだ」
私は詰まってしまった。確かに言われたって止めなかっただろう。実際に私は阪上君に対して怒っていて、文句を言いたかったからだ。そして私一人ではまた口で負けてしまうことは判っていた。
だから店長が居てくれるなら、などと思ったはずだ。
「だ・・・だって、私のことですし!」
「で、シカが一緒にくる。そうすると好きな女の前で格好つけなきゃならないって思い込んでるあの子はまた虚勢を張る。それでマトモな話し合いにはならずに、最後は暴力沙汰になる。―――――――それが判ったから置いていったんだよ」
悔しいことに、言い返せなかった。だってその通りになったと思うから。
店長は私のベッドの上で転がりながら、天井を眺めて話す。
「男同士で話すのに、シカは邪魔だった。この前、一緒に出かけたときに後ろをついてくるヤツに気付いたんだよ。それで、俺は急用を思い出して帰ることにした。・・・覚えてる?」
私は何とか頷いた。
確かに、そんなことがあったのだ。
あれは山神の休みの日、月曜日のことだった。山神が休みの日の前日は、店長は私の部屋に来て泊まって行く。だからその前の晩も、彼は私の部屋に泊まっていたのだ。
それで翌日の月曜日は久しぶりに映画でも観る?という話になって、とりあえず昼食を食べに行こうって二人で部屋を出た。