山神様にお願い
するとこれまたアッサリと店長は言った。
「彼女に近づくな」
「は?」
「これ以上嫌がらせをするようなら、君の人生賭けてもらうことになるよ、って言ったんだ」
「・・・はあ」
「何を言われてるか、その賢い頭で考えたらすぐ判るだろう?って。それだけ。あの子はしばらく青ざめていたけど、その内に頷いたよ。判りましたって」
あの人、怖かったよ――――――――――阪上君はそう言っていた。多分、後ろで壁になっているヤンキー君たちは必要なかったのだろう。それほど、店長の本気に驚いたのだろうって私は思った。
だって龍さんも言ってたもの。
タカさんとふざけて店長を怒らせた時、目の前にいた店長の目が強烈に冷たかったのだけはまだ覚えてるって。
あれは本当に怖かったって。
寝転がったままで今は目を閉じてしまっている店長を眺めた。
この、穏やかそうに見える男の人が。
背が高くて黒髪で色白で、言葉も雰囲気も柔らかくて優しい笑顔を崩さない、この人が。
まさかまさか、高校生にそんな威嚇をするとは思わなかった。
まさしく虎なのだ、この人は。
動物、獣みたいに、必要なことをしてシンプルに生きたいって言ってた、あの言葉の通り。
自分のものを守る為に牙をむく。その時には完全に躊躇も容赦もないんだな、そう思った。
あの柔らかい、ビロードのような黄金の毛の中に、鋭く肉を切り裂く爪も牙も持っている。
―――――――――――彼は、虎なのだ。