山神様にお願い
・遠距離恋愛予備組
冬の頂点が近づきつつあった。
もうすぐ年末で、この一年の残り日数が少なくなるにつれてイベント事の好きな日本人を喜ばせ、ガッカリさせ、または興奮させて疲れさせる催しが目白押しになる。
例えば、クリスマス。
例えば、冬休み。
例えば、冬のボーナス。
そして年の暮れと新年だ。
私は田舎から出てきた大学生の一人暮らしの人間なので、年末年始は実家に戻る。それを告げると、夕波店長からは盛大なブーイングが起こった。
「えええー!?実家に帰るの~?」
私は驚いて彼を振り返る。
「・・・そりゃあ、年末年始ですからねえ。家族も楽しみにしてますし、私も楽しみですから」
地元に戻れば友達もいるし、既に初詣に一緒にいく約束だってしているのだ。それに、両親は私が帰るのを楽しみにしているし、4つ下の妹だって「たまにはお姉ちゃんの顔見ないと忘れそう~」などと言っていた。
高校生の妹に二人部屋だったところを譲っているので、私が帰ると部屋が狭くなると文句も言うが、休みの間はなんだかんだと一緒にいる妹なのだ。私も会いたい。
「俺と離れるのは寂しくないの、シカ坊」
大人のくせに、もうすぐ三十路だっていうのに、店長はそういってふんと拗ねていた。