山神様にお願い


『そんなこと聞かれるとは!おかしいなあ、本気の恋になったはずだったのに、まだ薄かったのか?帰ったらお仕置きだぞ~、シカ坊』

「え」

 おおおおおおお仕置き!?お仕置きですかっ!いや、それは遠慮したいです・・・。心の中で呟いていたら、店長は続けて話す。

『俺はまだしばらく山神を続けるよ。他にやりたいこともないし、龍さんが新メニューを考えたぞって明けて早々に電話くれたし。だから、店を辞めてもシカはいつでも来たらいいんだ。戻りたいときに、戻ればいい。店はあそこから動かない。だけど・・・』

「・・・だけど?」

『俺は自由に動けるからね、当たり前にシカの部屋に居座るつもりなんだけどね~。・・・それか、あらあら、まさか離れるつもりだったとか?』

 ぎょっとした。最後の方、いきなりぐいいい~んと店長の声が低くなったからだった。

 私は慌てて舌を噛みながら言う。見えないと判ってるけど首もぶんぶん振っておいた。

「いえいえいえいえっ!わ、別れるとかはっ!考えてませんでした!だ、だけど・・・その、遠距離恋愛になるかなあ~って・・・」

 ククク・・・と向こうから笑い声が聞こえる。何か、バレてそう。一瞬でも別れとかを考えてしまったこと。

 私は一人で冷や汗をかいていた。

『そんな距離じゃないでしょ。それに、山神は週休2日だぞ~。前の日から会いに行けば、都会のカップルでは普通のデート頻度でしょ』

 週に二日はシカを相手にやりたい放題出来るってことだよ~、なんて恐ろしい台詞を吐いて、機嫌を直した声でカラカラと笑っている。


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