山神様にお願い


 新しい部屋の決め手は大きめのキッチンだ。ファミリータイプのキッチンがついた、ちょっと広めの1LDK。その部屋を見つけてくれたのは夕波店長。

 知り合いに不動産屋がいるとかで、簡単に物件の紙をいくつか持ってきてくれたのだ。

「色んな知り合いがいますねえ~」

 感心した私がそう言うと、店長はケラケラと笑う。

「不動産屋って元がヤクザ者が多いんだよ」

「えっ!そうなんですか?」

「うん、だから俺も、都会に出ないで不動産やらないかって片山さんの元ダンナに誘われたことがある」

 ・・・へええ~、そうなんだ、だった。でも母親との約束を守る為に都会に出てきて、ある飲み屋でオーナーの日々立さんと知り合いになったらしい。

 そして気に入られて、この場所に店を出すことになったんだって。

 とにかく、店長が見つけてきてくれたその部屋は風もよく通って日当たりもよく、しかも台所が大きかったので一目で気に入ったのだった。

 これだったら、二人分の食事も効率よく作れる、そう思ってちょっと幸せな気分になっていた。

 契約印を押すときには横に夕波店長がちゃっかりと座っていて、その知り合いだという不動産屋さんにアレコレと割引を要求していた。実際のところ、私はそれが恥かしかった。

 でも止めてください~!って言うと、店長はちらりと上から私を見下ろしたのだ。

「俺も金出すんだから、口出す権利はあるだろ?」

 って。


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