山神様にお願い
彼は、ほぼ同棲になることを考えて家賃は半分払うつもりらしい。ホテル代も浮くしね~って不動産屋で言うから、私は彼の長い足を蹴っ飛ばした。
「黙ってて下さい!」
そう言って。
不動産屋さんが前で苦笑していた。コタロー君、デレデレじゃんって。まさかあの感情がないみたいな君が、そんな顔で笑うとはね、って。
季節はいつでもちゃんと巡る。
大学の友達、眞子達との卒業旅行も行って、大学の卒業式も済ませ、私は既に新しい部屋へと引っ越して、企業の新人研修に出ていた。
桜の花びらが完全には開いていない4月の初め、入社式で緊張してしんどい思いをした私は、電車の方向を変えて懐かしい車両に飛び乗った。
今晩は、久しぶりに山神へ行こう、そう思って。
店長には今晩行きますって言ってなかったけど、あの人と龍さんはいつでも店に入ってるから問題ない。ツルさんとウマ君に会えるかは運次第。そして、私が抜けてから、山神ではまた、新しい獣を雇ったのだ。
今度の獣は兎らしい。皆にはウサって呼ばれてると店長が言っていた。その女の人は私より年上の24歳。名前が美兎と書いて「みと」と読むんだそうだ。
店長曰く、早速龍さんがおもちゃにしようと企んでいるみたいだけど、その人はうまくあしらっているらしい。虎も俺に加勢しろよ!って文句言ってるよ~、だって。今のところ、店長は様子見だって言っていた。
そのウサさんには会えるはず、そう思って、弾む足取りで電車を降りた。
さっきまでの緊張からくる肩こりもどこかに行ってしまったみたいだった。それほど私の機嫌はアップしていたのだ。
急ぎ足になって商店街を突き進む。
もうちょっと、あと少し。
ここを曲がれば、あの小さな店の入口が見えるはず―――――――――――