山神様にお願い
店長の一言で、龍さんが頭をタオルで縛る。ウサさんが雑巾やら未使用の伝票やらを片付けに走る。
私はカウンターの一番端に座って、ワクワクしながら突き出しとビールがくるのを待っていた。
今日はオープンクローズで居座るつもりだ。
そして、彼と手を繋いで帰る。俺も飲みたいから、タクシーでいい?って聞くはずだ。
そしてタクシーの中で、私のスカートに手を突っ込もうと頑張るはず。だからそれを阻止できる程度の酔いに抑えとかなきゃ――――――――――
暖簾が出て、入口に灯りがともる。
お客さんがドアを開けて笑顔で入ってくる。
山神の獣達は大きな声でそれを出迎える。
「いらっしゃいませー!」
そう言って振り返り、大きな笑顔を浮かべるのだ。
グラスが鳴る音や、龍さんが料理を作る音。8時から来たツルさんが皆に配る笑顔と明るい声。
途中でいきなり消えて、森で寝てしまう店長。
それをぷんすか怒る龍さん。
私は笑ってビールを飲む。
何てここは、温かい場所だろうかと思って。