山神様にお願い


 ここ、酒処山神という店は、従業員の採用基準がぶっとんでいる。それが俺の名前が役に立った理由。なんと、名前の中に動物の字が使われている人が優先されるのだ。

 例えばさっきの板前さん、リュウさんは右田龍治さん。龍は厳格には幻の珍獣だと思うけれど、細かいことは無視するそうだ。それで変わった店長がトラさん。名前が夕波虎太郎で、虎の文字が入る。鶴名瞳さんという名前のフリーター女性はツルで、ついこの春に入ったばかりの新人さんは鹿倉ひばりさんというらしい。名前が既に動物だらけだ。彼女は即採用だったはず。とにかくそれでシカと呼ぶことに決まった、と聞いた。

 俺の時、バイトの募集出した時には応募者が多かったとあとで知ったのだ。だけど俺が選ばれたって。特に居酒屋経験がない俺が、どうして選ばれたんだろう?面接がうまく行ったのかな~、って、来年には就職活動を控えている俺は嬉しく思ったものだったのだ。

 でも謎がとけると同時にガッカリした。

 だって、名前に馬が入ってるから、だなんて。・・・それさ、俺、面接とか履歴書必要だった?みたいな。

 まあとにかく、色んな不思議がある夕波店長率いるここ、酒処山神は、今晩もオープンの時間を迎える。

 笑い声、酒瓶の滴、リュウさんが作る美味しい料理の匂いの氾濫する、いつもの夜が───────────



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