山神様にお願い
「初めまして、鹿倉です」
そう挨拶してくれたその新人さんは、ふんわりとした雰囲気をまとった、笑顔の可愛い人だった。
「宜しくお願いします!」
俺もにっこりと笑顔を作って挨拶をする。今晩、ようやく彼女に会えたのだった。
大学の4回生らしく、既に内定も決まって自由の身だと聞いて羨ましかった。これから俺が通る予定の人生の修羅場を、彼女は無事に通過したってことなのだから。
今まで店には俺より大人ばかりだった。だから同じ学生の人が来たってだけで嬉しい。それだけじゃなくて、トラさんやリュウさんが言うように、鹿倉さんはすこぶる常識的な──────若干天然が入っているけれど───────女の人だった。
・・・こりゃあからかわれるはずだよな。
その日一日で俺にも判った。
すぐ真っ赤になる顔。キョトンとすることも多い。それから冷や汗や脂汗。それが全て表情に出ていて、ワタワタするところなんかをトラさんもリュウさんも喜んでいるのがよく判った。
彼女はちょっとしたことで二人に正反対のことを命じられて、二人の間でウロウロと困っている。笑いそうになったけど、俺はちょくちょく助け舟を出していった。だってツルさんに命じられていたからだ。ウマ君、シカちゃんをちゃんと苛めっ子から守ってあげてね、って。
「こらウマ、邪魔をするでない。折角俺がおもちゃにしているのに!」
リュウさんがそう言って口を尖らせる。俺は聞こえません、のフリを続けて、シカさんにテーブル予約のセッティングを教えていた。