山神様にお願い


「くそ、あいつ無視だぜ無視!トラ、何とかしろよ~バイトの態度が悪いよ~」

「リュウさんいい年してダダこねないの。ウマは俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだよ。な、ウマ?」

 そっちもスルーした。トラさんがぐるると唸る。

「・・・こらウマ、てめえ・・・」

「はははは!ほら見ろトラ!お前だって俺と同レベルの扱いだよ!」

「あのー・・・大丈夫、なの?私のことならいいよ?」

 そう言ってシカさんは挙動不審になりながら心配していたけれど、俺はそのままで教育を続ける。やがて全部が終わってから、大丈夫ですよと笑ってみせた。

「強くなってください、シカさん。この店は、弱肉強食なんです」

「え・・・ええと・・・あ、はい」

 傍目から見ても気の毒なくらいに、彼女はびびっていた。

 その彼女の様子が、おかしくなった時があった。

 夏がきたな~って暑い日が続く、ある夜だった。いつものように、場所は山神。しばらく観察していたらしいトラさんもリュウさんも、こりゃダメだって思ったらしい。ついでに一緒に入っていたツルさんも。可哀想だったわ、あの子、といっていた。俺はいなかったから見てはいないけれど、もう散々だったらしい。

 会話が繋がらない。

 お皿を2枚は割る。

 注文を受け損なう。

 配膳を間違える。

 シカさんは入店するなりリュウさんにもツルさんにも気に入られた、即戦力になった人だった。だからその、使えない新人よりも使えない状態の彼女に困惑したらしい。


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