山神様にお願い


 で、結局トラさんが問い詰めたと。

 うちの店長は外見は優男ではあるが、中身はそんじょそこらのヤクザよりも怖い男らしい。あのニコニコ笑顔でひょうきんかつだら~っとした店長のどこにそんな恐ろしさが隠れているのかは判らない。幸運にも俺はまだそんな「山神のトラの本性」なるものを目撃してはいないが、リュウさんもツルさんも怖がるくらいなんだからよっぽどなんだろうって思っていた。

 その店長に問い詰められる。そりゃあ怖い体験だっただろうと思う。

 とにかく、それでシカさんが死んでいた理由が判った。

 彼女は、彼氏に振られたらしい─────────



「てなわけで」

 リュウさんが言った。

「海へゴーゴーゴー、だな」

 そしてにやりと企んだ笑顔を見せる。

 俺は話の成り行きがよく判らずに首を捻ったけれど、ツルさんもトラさんも「おっけーおっけー」って感じだった。だからすぐに頷いた。

 夏で海、この組み合わせが嫌いな若者は、この店にはいない。

 それにこの驚くような嬌声の中で、誰かが文句を言ったところでそれが届くのだろうか、という疑問もあった。


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