山神様にお願い
だから私は言ってやった。
つい数ヶ月前のこと、この山神でリュウさんがお客さん相手に暴れまくって店中を破壊し、シカちゃんを泣かせ、ウマ君を慌てさせ、そしてトラさんを激怒させたってことを。
そもそもあんたの短気が悪いのよ。間違いない。
「ねえリュウさん、いい加減にその怒りっぽいのなんとかしなきゃ、今度こそ首よ首。まだあの時の借金残ってんじゃないの?」
リュウさんは、ぐっと詰まった。わははははは、いい薬よホント。
思い出すのも恐ろしい、あれは秋のある晩のこと。
トラさんが珍しく、というか山神開店以来初めて長期の里帰りをした時だった。
トラさんがいないので、山神はリュウさんと私がいつでもいて、交代でウマ君とシカちゃんに入ってもらっていた。シカちゃんは家庭教師のバイトもしていたけれどそれは山神が休みな月曜日だったし、本人はそこの“悪魔のような”生徒から離れたがっていたから問題ないようだった。ウマ君は元々ここ一つだけだし、大学も3回生になると結構暇らしい。
私は大学なんて行ったことがないからよく判らないんだけど。とにかく、何の問題もなく、トラさん不在の毎日は過ぎていたのよ。
なのにあの夜、困った客が来てしまった。それも夕波店長いる?って聞いたことから考えるにトラさんの知り合いみたいだった。
昔のヤンキーを更に崩したような、外見もいかにも悪そうなバカ共だった。
だけど、お客さんなのよ。そしてここはお酒を出す夜の店。そんなことで客を選別したりしない。というか、いつもはトラさんが「この客は」と思う人達の選別をしていたし、彼のもつ柔らかな物腰で上手に追っ払っていたのだ。