山神様にお願い
これ、本当なのよ、全然盛ってないの!とにかくすんごーい怖かったあの時のトラさんを知っている私は確信したってわけ。
リュウさん、マジで御臨終だわ、って。
だけど仕方ないよね、それだけのことをしたんだもん。私だって怒り狂っていたのだから。庇わないわよ。
私はその時、警察に付き添いをして行った。だって当の本人たちが負傷中で、特にリュウさんに好き放題されまくった相手のバカ共は全身ボロ雑巾みたいになっていた。B級のスプラッタ映画よ、ほんと。
だから事情聴取として私が行ったの。全部話した。リュウさんから先に暴れたってのも。勿論相手の態度が酷かったことも伝えたけれど、接客業で店の人間が先に手を出したらその時点でアウトなのだ。防衛にはなれない。
嵐のような夜だったあの時のことを、私は丁寧~にリュウさんに思い出させてあげた。
「・・・お前、優しくねーよな。どうして女っていつまでも過去をほじくり返すんだ?」
リュウさんはぶっすーとしてそんな文句を言ったけれど、声は小さくなっていた。
「ほじくりかえされたくなかったら学習してよ。頼むから、トラさんを怒らせることはしないでちょ~だーい」
ふん、と声が聞こえた。
え?って振り返るとそこには噂の山神のトラが!
2階から降りてきたところのようで、まだぼーっとした顔をして壁にもたれて立っている。ってこらこら、お客さんの前ですよ、店長!・・・まあ誰も見てないけど。
トラさんは、寝起きが悪い。とてつもなくよくない。だから私は一瞬緊張した。これからの展開が読めなくて。でも流石責任者だけあって、店に下りてくるときには寝起きの悪さは通過した後だったようだ。